雛人形の七段飾りに飾る雛道具の配置と意味は?
雛人形を飾るとき、人形一人一人の手に持たせるものがあります。
また、置くだけの御道具類にも意外と奥深い意味も隠れています。
その持たせ方や置き方、どんなときに使用するのかなど、理解しながら飾ると楽しみが増えますのでご紹介します。
ここでは、雛人形の基本であり、一番豪華な七段飾りを例にとってご案内します。
最上段「お内裏様」の御道具の飾り方
まずお殿様(男性)には烏帽子をかぶらせます。
この時、紐は耳の後ろにかけず、耳の上をまっすぐ通るようにし、あごの下で蝶結びしましょう。
纓(えい)を真っすぐに立てるようにします。これは立纓(りゅうえい又はりつえい)と呼び、最上位の人物の纓となります。
右手に笏(しゃく)を持たせ、左の脇下に刀を差しましょう。
お姫様(女性)には、檜扇(ひおうぎ)を持たせます。たたまれていることもありますので、広げた状態で手に持たせましょう。もし手の向きが檜扇と合わずに持たせにくければ、手を持って手首を回して調整も可能です。(なかには手首が回らない人形もありますので様子を見ながら動かしてみてください。)
二人の後ろには屏風を置き、左右脇に雪洞(ぼんぼり)を飾りましょう。
二人の前の真ん中に三方を置きます。また、殿と姫の飾る場所が、関東と関西で逆になる場合があります。関東では、向かって右側にお姫様、左側にお殿様を飾りますが、関西では、特に京都の職人による伝統的な雛人形「京雛」では、その逆で、向かって右側にお殿様、左側のお姫様を飾ります。
二~五段目の御道具の飾り方
2段目には、三人官女が並びます。
向かって左の官女には加えの銚子(くわえのちょうし)を持たせます。
加えの銚子は鍋に似た形の金属製の器で、提子(ひさげ)とも言います。銚子の一種でかつては宴席で酒を注ぎ勧めるのに使用されていたものですが室町時代以降は銚子が晴れの席に用いられるようになりました。提子は銚子に酒を加えるためのものに変わりました。
真ん中の官女には三方(さんぽう)。
三方はお祝いの際に飾る置物のこと。三方向に穴があいていることから、三方と呼びます。
また、京都の官女は嶋台(しまだい)を持つことがあります。島のかたちをした台に縁起のよい品々を載せた飾り物です。
向かって右の官女には長柄の銚子(ながえのちょうし)を持たせます。
お祝いの席で盃に酒を注ぐ道具です。言葉通り、柄が長いので長柄の銚子といいます。
加えの銚子から長柄の銚子にお酒を注いで、長柄の銚子から客人の盃にお酒が注がれるという流れとなりますね。
さて、飾り物として2段目には、三人官女の間に丸餅を載せた高坏(たかつき)を置きます。高坏は身分の高い人に食べ物を献上するときに使う足付きの台のことで、雛人形にはおめでたい紅白餅が置かれる場合が多くなっています。
3段目には、五人囃子が並びます。向かって左から太鼓(たいこ)、大皮鼓(おおかわつづみ)、小鼓(こつづみ)、笛(ふえ)、謡(うたい)と並びます。謡は人間の声を楽器にしていますが、謡からお隣りへ、左へ行くにしたがって音の大きい楽器を演奏すると覚えると飾るときにも便利です。
この段には雅楽が並ぶこともあり、こちらは七人でそれぞれひとつずつ七つの楽器を手に持ちます。七人雅楽と呼びます。七つの楽器は、箏(そう)・横笛(よこぶえ)・篳篥(ひちりき)・火焔太鼓(かえんだいこ)・笙(しょう)・琵琶(びわ)・羯鼓(かっこ)です。
東玉の大宮人飾りシリーズ「藤原」は、宮中の雅楽をモデルとした七段飾りが内閣総理大臣賞を受賞しています。
4段目には、随臣(ずいしん)が並びます。随身とも書きます。
随臣とは御所の警護の任務にあたる人を差し、雛人形では右大臣・左大臣とも呼びます。
烏帽子をかぶせ、纓を差してください。この二人の纓をお殿様と比べてみましょう。
巻纓(まきえい)といってくるりと曲がった纓となっていますね。これは前述したように位をあらわしており、随臣はお殿様よりも位が低いことをあらわします。また耳のあたりにふさふさと見える飾りは緌(おいかけ)といい、耳当てのようなこの装飾はもともとは馬の毛で作られていたものでした。武官束帯ですが下級者である随臣の装束にも見られた装飾です。
そして左手に弓、右手には矢羽根を羽根部分を下にして持たせます。背負い矢は、向かって右の肩側に羽根の先が見えるようにつけましょう。
中央にお膳揃と菱餅を置きます。
菱餅は三色で表現されるのが基本で、ピンクは桃の花の色、白は雪の色、緑は雪の下から芽吹く新緑の色をあらわしています。3色が重なると、春を待ちわびる日本人の心が映し出されるようですね。しかし現在の雛人形に飾られる菱餅は、3色にとどまらず、その色の組み合わせも色数も多種多様です。生み出す職人によって、どの色が何をあらわしているかそれはすべておめでたいことにつながっていくのですが、それを想像するのも楽しいかもしれません。
5段目には、仕丁が並びます。表情豊かな三人は、向かって左から怒り、泣き、笑い、の順番に並べましょう。三人は外出するときの従者として色々な雑務をこなしており、左から台笠(だいがさ)、沓台(くつだい)、立傘(たてがさ)を持たせます。京雛は、御所の掃除道具が題材となっており、左から箒、ちりとり、熊手を持たせます。
仕丁の左右には桜橘を飾ります。この木の並びは御所の紫宸殿に植えられている桜と橘をモデルとしています。おひなさまからみて左に桜、右に橘を配します。「左近の桜(さこんのさくら)・右近の橘(うこんのたちばな)」と呼ばれます。橘は日本に古くから野生していた日本固有の柑橘類で、松と同様、常緑が永遠の繁栄の喩えとされています。また橘は冬に花が咲くことから、不老長寿の木とされています。日本の花の象徴でもある桜は古来より魔除けや邪気払いの効果があるとされています。雛人形のお道具である桜橘はお子様が健康に育つように願いを込めて飾られています。
六~七段目は嫁入道具を飾り方
6段目には、雛道具が置かれます。これらの雛道具は婚礼道具をモデルとしており、嫁入り道具とも呼ばれます。向かって左から箪笥(たんす)、長持(ながもち)、鏡台(きょうだい)、針箱(はりばこ)、火鉢(ひばち)、衣裳袋(いしょうぶくろ)、茶道具(ちゃどうぐ)の順に並べます。
昔の姫君たちは子供のころからこの御道具でおままごと遊びをすることで、家の中のことを覚えていったといいます。
7段目は向かって左から御駕篭(おかご)、重箱、牛車(ぎっしゃ)と並べます。
御駕篭には立傘が二本ついている場合がありますので、立てて飾りましょう。
御駕篭は人間が座る籠を棒に通し、前後から複数人で担いで運ぶ乗り物です。重箱には言わずと知れたお祝いのごちそうが入っていることでしょう。牛車は牛に引かせる乗り物として平安時代では一般的でしたが、権威の象徴でもありました。牛車の代わりに人力で運ぶ御所車を並べる場合もあります。
最下段の7段目に置かれるのは、縁起の良い嫁入り道具や参加者が整い、婚礼の行列がこれから行われるぞという場面に使われる御道具類です。最下段まですべて飾り終えたら、お雛様たちのお祝いの席に思いを巡らすのも楽しいでしょう。
七段飾りの飾り方は日本の伝統文化の凝縮
さて、七段飾りにはいろいろな物語が隠れていそうですね。
最後に、全段に共通する飾り、「緋毛氈」についてご紹介したいと思います。七段の階段にカーペットのように敷かれている赤い布のことを緋毛氈といいます。赤色の緋毛氈には魔よけの力があるとされ、女の子に邪や厄が寄ってくるのを防ぎ、健やかに成長しますようにという願いが込められているのです。七段飾りでなくても、緋毛氈を床と雛人形の間に敷いて飾りたいものです。
ひな祭りは日本人の多くが昔から大切にしてきた文化。その歴史に思いを馳せ、楽しみながら雛人形を飾りましょう。
7段飾りは平均的に大きいサイズが多く、最近では3段飾りをご自宅用にされるお客様が多くなりました。
7段飾りと比べてコンパクトで出しやすく人気があります。
3段飾りの一部をご紹介します。
- 三段飾り「紫香」:三段飾り・東玉総本店人気No.1セット『紫香』。側板を組み換えることにより一段でも、二段でも、三段でもお飾りいただける、東玉オリジナル「一、二の三段」です。お殿さま、お姫さまには段織りの衣裳を使用し、高級感あるつくりになっております。屏風と段の、桜の模様は駿河蒔絵で描かれております。